「着物の生地にはどんな種類がある?」
「着物の生地を見分けるにはどうしたらよい?」
日本の伝統衣装である着物には特有の素材や織り方、染め方などがあり、その一つひとつが価値を決める要素になります。そのため、着物生地を見分けるには素材や技術への理解が必須です。
本記事では着物の生地の見分け方を、生地素材や織り方、染め方に触れながら解説していきます。着物の生地の価値を見分けたい方はぜひ参考にしてみてください。
着物の生地の種類と見分け方
まずは着物に使われる素材の紹介です。着物の生地に使用されている代表的な素材には以下の5つがあげられます。
- 絹(シルク)
- 綿
- 麻
- ウール
- ポリエステル
それぞれの素材に特有の手触りや見た目、光沢感があり、特徴を把握すれば専門知識がなくても比較的簡単に見分けられます。着物の生地を見分ける最初の一歩として、生地素材の違いを理解していきましょう。
1.絹(シルク)
絹(英語「シルク」)は蚕 (かいこ)が作る繭 (まゆ)を原料とする天然素材です。繭を鍋で煮てほぐしやすくした後、何本かをまとめると1本の生糸になり、さらに精錬するとで絹ができあがります。
繭は蚕がサナギになる際に身を守るために作る細長い球体の部屋のようなものです。直径2〜3センチの繭から約1,500メートルの長い糸が採れると言われています。
以下に絹の主な特徴をまとめました。
- 特有の光沢感がある
- 吸湿性・放湿性に優れている
- 素肌への刺激が少ない
絹を構成するフィブロインと言われる繊維状のタンパク質は、断面がプリズム状になっているため光を乱反射させます。これにより、シルクならではの光沢が生み出されるのです。
また、フィブロインは人の肌とほぼ同じアミノ酸組成となっているため、絹には素肌への刺激が少ない特徴もあります。さらに絹の繊維には隙間がたくさんあるため、湿性、保湿性に優れており、夏は涼しく冬は暖かい点も特徴です。
絹の見分け方には、生地と生地を擦りあわせて「キュッキュッ」と音が鳴るか確かめる方法があります。天然素材の絹であれば構成する繊維の断面が引っかかるため、擦り合わせると音が鳴ります。天然素材のシルクかどうか確かめたい場合は、生地を擦りあわせてみましょう。
2.綿
綿(英語「コットン」)とは、アオイ科ワタ属の多年草「ワタ」の種子から採れる繊維や、その繊維からなる布や糸を指します。日本では綿を「木綿」と呼ぶことがあり、これは日本に綿が持ち込まれる以前に主流の素材だった、蚕の繭から採れる「真綿」(いわゆる絹)と「木から採れる綿」の「木綿」を区別するためです。
以下に綿の特徴をまとめました。
- 柔らかな肌触り
- 通気性・吸水性が高い
- 耐久性が高い
綿の繊維は端が尖っていないため、そのふんわりとした見た目のとおり、紡績後も肌触りが優しく、また、内部が空洞となっているため高い通気性と吸水性も備えています。さらに綿は繊維が太く、紡績によって練り上げると丈夫になるため、耐久性も高いです。
綿でできた着物は「木綿着物」と呼ばれ、浴衣のような比較的安くカジュアルな場面で着られるケースが多いです。綿の生地はツルツルと滑らず、日常で着る洋服のような柔らかく素朴な肌触りが感じられるため、見分ける場合は触って確かめてみましょう。
3.麻
麻という言葉自体はは一つの素材を指すものではありません。麻には、以下のような意味があります。
- 約20種類ある植物から採れる繊維の総称
- 日本の繊維製品で麻と表示可能な「亜麻(あま)=リネン」と「苧麻(ちょま)=ラミー」の2つを指す言葉
麻と表現される繊維が採れる植物には次のような種類があげられます。
名称 |
別名 |
繊維の種類 |
亜麻(あま) |
リネン |
靭皮繊維 |
苧麻(ちょま) |
ラミー |
|
黄麻(こうま) |
ジュート |
|
洋麻(ようま) |
ケナフ |
|
大麻(たいま) |
ヘンプ |
|
マニラ麻 |
アバカ |
葉脈繊維 |
サイザル麻 |
サイザル |
それぞれの植物から採れる繊維は、茎から採取される「靭皮繊維」と葉や葉柄から採取される「葉脈繊維」に分けられます。衣服に用いられやすいのは比較的柔らかい「靭皮繊維」であり、そのなかでも特に亜麻(あま)と苧麻(ちょま)の二つです。
また、日本の家庭用品品質表示法で麻と表示できる繊維製品は、亜麻(あま)と苧麻(ちょま)のどちらかを材料にした製品に限られており、その他の麻素材でできたものは「指定外繊維(黄麻)」のように素材を表示しなければなりません。
麻は植物の繊維を総称する一方で、衣類に使われる麻は亜麻(あま)と苧麻(ちょま)の2つだと理解しておきましょう。
なかでも着物の生地に多用されるのは、苧麻(ちょま)です。苧麻(ちょま)を使用した生地の代表格には、表面にシボと言われる凹凸がある「縮(ちぢみ)」や平織りにした上質な布「上布(じょうふ)」などがあり、以下の日本の名産となっている伝統的な織物もすべて苧麻(ちょま)が使われています。
- 小千谷縮(おぢやちぢみ):新潟県
- 近江縮(おうみちぢみ):滋賀県
- 宮古上布(みやこじょうふ):沖縄県
- 越後上布(えちごじょうふ)::新潟県
苧麻(ちょま)が使われた着物の生地には次のような特徴があります。
- 通気性が高い
- 吸湿性・速乾性がある
- 硬くて丈夫である
苧麻(ちょま)は中が空洞のマカロニのような構造をしているため、通気性と吸湿性が高く、放湿性にも優れてるため速乾性があります。また、苧麻は天然繊維のなかで強度が最も高く、その強靭さは羊毛の4倍、綿の2倍と言われています。水を含むと強度がさらに60%増します。
苧麻(ちょま)でできた生地は、さらりとした肌触りとシャリ感(※1)があるため、触ることで見分けられます。
※1:生地の感触を表現する言葉の一種でハリがあり、握ると反ぱつするような生地の感触
4.ウール
ウールは羊毛を原材料にした繊維素材です。セーターのようなモコモコとした生地をイメージするとわかりやすいでしょう。厳密にはラクダやカシミヤ、アンゴラなど他の獣毛もウールと呼ばれますが、羊毛以外の場合は素材名が記載されるため、ウールと記されているものは羊毛ととらえて問題ありません。
ウール生地には以下のような特徴があります。
- 保温性が高い
- 伸縮性がある
- 型崩れやシワが発生しづらい
イメージのとおり、ウールはその質感から保温性と伸縮性が高いです。ウールの繊維には「クリンプ」と呼ばれる縮れがあり、複雑に絡み合って空気を閉じ込めるため熱を逃がしにくい構造になっています。
また、この縮れは生地の伸縮性も生み出しており、その弾力性の高さによってシワや型崩れが起きにくくなっています。
ウールで作られた着物は主に普段着として着用されるカジュアルな印象が特徴的で、価格も1万〜5万円と比較的購入しやすい金額です。
またウール自体に厚みがあるため、ウール着物は基本的には裏地のない単衣(ひとえ)となっています。ウール着物は絹や麻の着物よりも分厚く、若干チクチクとした肌触りであるため、見た目でも肌触りでも見分けやすいでしょう。
5.ポリエステル
ポリエステルは、石油から作られる化学物質の「ポリエチレンテレフタレート」を熱で溶かした後に長い繊維に紡いだものです。天然繊維の麻や綿を模倣して作られ、1953年から実用化されました。現在では他の素材と組みあわせて素材同士の欠点を補う「ポリエステル混紡」もさまざまな衣類に用いられています。
ポリエステルの特徴を以下にまとめました。
- シワになりづらい
- 乾きやすい
- 虫食いが起きづらい
ポリエステルは元の形を保とうとする性質があるためシワになりづらく、水に濡れても比較的すぐ乾きます。そのため、ポリエステル製の着物は自宅で洗濯しやすいです。
また、化学製品でできていることから虫食いも起きづらく、保管の手間もかかりづらいのも大きなメリットです。
ポリエステル製の着物は、天然素材の繊維よりも量産しやすいことから比較的安価で手に入れられるため、着物の扱いに慣れていない人にもおすすめの素材です。
近年では技術の発達により、ポリエステルでも絹と見た目の違いがわかりづらくなっています。ただし、ポリエステルにはプラスチックのようなツルツルした感触があり、天然素材に比べてややチープな印象を感じる人もいます。熱伝導率が低く、両手で生地を挟んでも肌のぬくもりが伝わりづらいため、見分ける際は参考にしてみてください。
着物の織り方の種類
続いては、着物の織り方の種類とそれぞれの特徴を以下の順にご紹介していきます。
- 平織り
- 綾織り
- 縮緬織り
- 紬織り
- 紋意匠
- 羽二重
織り方の違いは、見た目の美しさだけでなく、着心地や用途にも影響します。用途に合った着物を選んだり、自分が来ている着物の織り方を把握したりするためにも、それぞれの織り方の特徴を学んでいきましょう。
1.平織り
平織りは、たて糸とよこ糸を1本ずつ交差させる、織物のなかでも基本的な織り方です。平織りの主な特徴を以下にまとめました。
- 硬くてハリがある生地
- 伸縮性がない
- 通気性がよい
平織りは、糸と糸が交差する箇所が多いため生地全体が固く、ハリのある丈夫な仕上がりになるのが大きな特徴です。一方で、糸と糸が交差する箇所が多いことから糸同士が離れようとする力が働くため隙間ができ、薄地で通気性の高い生地になります。そのため、丈夫さと軽さが求められるシャツのような普段着を作る際に用いられるケースが多いです。
また、平織りはシンプルで基本となる織り方のため、羽二重(はぶたえ)や縮(ちぢみ)、上布(じょうふ)、縮緬織り(ちりめんおり)などさまざまな生地へ応用されています。
- 羽二重(はぶたえ):撚(より)のない上質な生糸を平織りした生地
- 縮(ちぢみ):よこ糸に撚(より)をかけた糸を使った、表面にシボと呼ばれる凹凸のある生地
- 上布(じょうふ):苧麻(ちょま)から採れる上質な糸を平織りにした生地
- 縮緬織り(ちりめんおり):よこ糸に強い撚(より)をかけた糸を使うことで、表面に独特の凹凸がある生地
シンプルな平織りは見た目が左右対称になるため、他の生地と比較すると見分けやすいです。ただし、縮(ちぢみ)や上布(じょうふ)、縮緬(ちりめん)などを見分ける場合は、それぞれの特徴を押さえておく必要があります。難しい場合は、専門知識を持つ業者に査定を依頼して、織り方とその価値をあわせてチェックしてもらうのがおすすめです。
「まねきや」では着物生地に精通した鑑定士が在籍しており、縮(ちぢみ)や上布(じょうふ)、縮緬(ちりめん)などの生地それぞれの特徴を押さえ、正確に見分けます。古くなった着物をお持ちで、生地の織り方や価値がわからない方は、ぜひ「まねきや」へご相談ください。
2.綾織り
綾織りは、たて糸とよこ糸を2本ずつ抜かしながら交差させる織り方です。平織りではたてとよこの糸が1本ずつが重なりますが、綾織りでは1本のたて糸の下に2本のよこ糸をくぐらせる箇所ができる点が大きな違いです。
また、綾織りはその織り方から表面に斜めの畝(うね)(※1)が浮かび上がるため「斜文織り(しゃもんおり)」とも呼ばれています。(※1)畝:畑で作物を植えるために、細長く盛り上げた土の部分
綾織りの特徴
- 伸縮性がある
- 厚手の生地になる
- 柔らかい質感になる
平織りよりも糸と糸の重なる部分が少ないため耐久性に劣るものの、しなやかで伸び縮みしやすい生地に仕上がります。また、重なる部分が少ないと糸と糸がくっつく力が働くため、隙間が少なくなり、分厚くソフトな仕上がりになる点も綾織りの特徴です。
このような特性を生かして、身近な衣類ではデニム生地に綾織りが採用されています。また綾織りは、先染めした糸を織り込むことで模様の部分がかすれて見える「絣(かすり)」と言われる生地にも用いられる場合があります。
綾織りの生地の見分け方には、斜めに浮かび上がる畝の有無や表と裏の色の違いを見つける方法があります。しかし模様が細かくなっていたり、後染めで表と裏で色が同じだったりする場合は見分けづらいため購入店へ確認しましょう。
3.縮緬織り
縮緬(ちりめん)織りは、表面にシボと呼ばれる凹凸のある生地の織り方を指します。ほとんど撚(より)をかけないたて糸と、左右に強い撚(より)をかけたよこ糸を織り込むことで、できあがった生地の表面にシボ(凹凸)を表現します。
一般的な縮緬はよこ糸に撚(より)をかけてシボを出すため「緯縮緬(よこちりめん)」、たて糸に撚(より)をかけてシボを出すものは「経縮緬(たてちりめん)」、たてとよこの両方の糸に撚(より)をかけたものは「経緯縮緬(たてよこちりめん)」と言われます。
縮緬織りの生地には以下のような特徴があります。
- シワになりづらい
- 伸縮性がある
- 生地の色に深みが生まれる
表面にシボがあることでシワがよりづらくなり、伸縮性も高くなります。また、シボの凹凸が光を複雑に反射させて、単色の生地にも色の鮮やかさを持たせてくれるため、高級な着物で用いられる場合が多いです。
以下に縮緬織の代表的な産地を紹介します。
- 丹後縮緬:丹後(現在の京都府北部)で製織された織物の総称。よこ糸にのみ撚(より)をかけた「緯縮緬(よこちりめん)」が一般的。
- 長浜縮緬(浜縮緬):長浜(滋賀県の北東部)で製織される絹織物。八丁撚糸(はっちょうねんし)と言われる生糸に強い撚(より)をかける工程が大きな特徴。
縮緬織りは表面のシボが特徴的なため、見た目と肌触りによって見分けやすいです。
4.紬織り
紬織りは、蚕の繭を潰した真綿から直接ひいた紬糸を使った織物です。蚕の繭から作られるため絹の一種とされますが、紬糸は主に生糸を引き出せない品質の低いくず繭を潰した真綿からできている点が大きな特徴です。紬織りには以下のような特徴があります。
- 素朴な風合いがある
- 耐久性が高い
紬織りはくず繭から採れる紬糸からできているため、糸にこぶ状の「ふし」が所々にみられ、生糸からできる本来の絹よりも落ち着いた素朴な印象があります。
また、紬織りはあらかじめ染めた糸を使って柄を表現する「先染め」が一般的です。事前に1本1本を染めていくため糸の耐久性が高く、紬織りは丈夫に作られている点も大きな特徴です。
江戸時代の日本では、藩へ納められない粗悪品とされていましたが、現代では機械の発達によって簡単に生糸を作れるため、手作業でしか取れない紬糸が逆に高級品となりました。以下は日本の有名な紬織りの一部です。
- 大島紬(鹿児島県):奄美地方の織物。長いもので完成までに1年を要するほど時間をかけられた作りが特徴。
- 結城紬(茨城県・栃木県):たて糸とよこ糸をくくって織る「経緯絣(たてよこかすり)」が大きな特徴。元々は「あしぎぬ」の名で呼ばれていた。
- 久米島紬(沖縄県):久米島産の染料が使用されるなど、地元の原材料にこだわっている。江戸時代には「琉球紬」とも呼ばれていた。
- 小千谷紬(新潟県):霧がかかったような優しい風合いが特徴的。絹ならではの光沢と素朴さの両方が感じられる。
紬織りを見分ける方法は、見た目と手触りの2つです。紬織りは、先染めした糸を平織りで織り込むため、基本的には表と裏のデザインが同じになります。また、手触りも絹のような滑らかさではなく、少し硬いざらついた印象を受けます。
5.紋意匠
出典:絹の白生地 伊と幸
紋意匠とは、よこ糸を二重にして織り出すことで、糸や織り方を変化させて布地全体に映し出す模様の「地紋」がはっきりと浮き出た生地です。紋意匠縮緬とも呼ばれ、黒以外の色の一色で染められた「色無地」やぼかし染めに地紋が織り込まれた布地に用いられる場合が多いです。
以下に紋意匠の特徴をまとめました。
- 表面に縮緬によるシボがある
- 地紋がはっきり見える
紋意匠は、撚(より)をかけたよこ糸を織り込む縮緬織りによってできた表面のシボが特徴的です。よこ糸を二重にして通常よりも模様がはっきりと映し出された紋意匠の着物は、淡い単色が多く、シンプルながらも上品さが感じられます。紋意匠は表面のシボと表面の凹凸、さらにはっきりと織り込まれた地紋を目印にすると見分けやすいです。
6.羽二重
羽二重(はぶたえ)は、撚(より)のない上質な生糸を平織りした生地です。厳密には、よこ糸と同じ幅になる2本のたて糸を引き揃えた平織りによって作られています。
織り機のたて糸を通す筬(おさ)には、羽(は)と呼ばれる、糸の間隔を整える櫛(くし)のようなものが並んでいます。この羽の隙間に細いたて糸を二重に通すため、「羽二重」と呼ばれています。
羽二重ならではの特徴には次の2つがあげられます。
- 光沢感がある
- 軽くて柔らかい
撚(より)のない上質な生糸を使用して、絹が本来持つ光沢感が増す特徴があり、また、細いたて糸を使うため、軽くて柔らかい仕上がりになる点も羽二重の特徴です。
羽二重は、生地を作った後に漂白作業を通すため、仕上がりがきれいな白生地になります。その薄さやなめらかさから、高級な着物や五つ紋が入った第一礼装の「黒紋付」の裏地にも使われています。
着物の染め方の種類
最後に、着物の染め方の種類をそれぞれの特徴とともにチェックしておきましょう。
- 先染め(さきぞめ)
- 後染め(あとぞめ)
- 絞り染め(しぼりぞめ)
- 型染め(かたぞめ)
着物は染色方法によって、柄の出方や仕上がりの風合いに個性が生まれます。見た目でおおよその染め方の分別ができるように、それぞれの染め方の特徴を把握していきましょう。
1.先染め(さきぞめ)
出典:YAMATOMI
先染めとは、糸の段階で染めたものを織り上げる技法です。先染めの着物は、色が染められた糸を織って作られるため「織りの着物」と呼ばれています。先染めの着物も深みのある色合いと素朴さが印象的で、カジュアルなシーンで着用する着物に多いです。
先染めには以下のようなメリット・デメリットがあります。
メリット
- 色に深みが出る
- 色落ちしづらい
デメリット
- 時間とコストがかかっているため、高価な場合が多い
先染めは1本1本に色が入っているため色落ちしづらく、生地を織った際に深みある色を表現できます。また、色づけてから生地にするため、できあがった布地は表と裏で色が一致する点も特徴としてあげられます。
一方で、糸の段階で染めるため大量の染料が必要になり、時間とコストがかかる点はデメリットになります。そのため、トレンドカラーや流行りの模様の布地を制作するのには向いていません。先染めは高級な品質の高さが売りとなる高級な布地や、縞模様や格子柄などの単純な模様を表現する場合に多いです。
2.後染め(あとぞめ)
後染めは、先述の先染めとは反対に、織った後の生地に柄を染める技法です。後染めの着物は「染めの着物」と呼ばれ、手触りのよさと肌に吸いつく柔らかな感触から「やわらかもの」の言い方もされます。後染め着物は、先染め着物よりもフォーマルな場所に適しており、「友禅染め」のような華やかで優雅な絵柄の着物に多いです。
以下に後染めのメリット・デメリットをまとめました。
メリット
- 複雑な色や模様を表現できる
- 製造コストが低いため、安価で手に入る場合がある
デメリット
- 色落ちしやすい
- 色に深みがでない
後染めは先染めと対照的であり、染色したい箇所のみ色付けるためコストが抑えられ、さらに複雑な模様も自由に表現できます。一方で、表面のみを染めるため、深みのある色が出ず洗濯や摩擦によって色落ちもしやすいデメリットがあります。
好みの模様や色を布地へ表現したい場合や、比較的安価な生地を大量生産する際に後染めは用いられやすいです。
3.絞り染め(しぼりぞめ)
絞り染めは、布を縛ったり捻ったりして染料に付けて、染料が染み込まない部分を作ることで模様を表現する染め方です。後染めの1つであり、すべてが手作業で行われ、映し出される模様は立体感のある特徴的な柄となります。
絞り染めのメリット・デメリットを以下にまとめました。
メリット
- 他にはない模様が表現できる
- シンプルで洗練された見栄えになりやすい
デメリット
- 色落ちしやすい
- 生地素材が限られる
絞り染めは手作業で行われ、さらに生地素材や絞り方、染料の沁み方は予測できないため、でき上がる模様は唯一無二のものとなります。また絞り染めは世界各地にさまざまな技法が存在しており、南国の花を思わせるようなオリエンタルな模様に仕上がるのも特徴です。
一方で、絞り染めは色落ちのしやすさと生地の素材が柔らかいものに限られる点がデメリットです。絞り染めされた布地は、繊維の色落ちや色移りに対する強さを表す「染色堅牢度」が低く色落ちがしやすいです。また、生地素材が硬いと思うように絞ったりねじったりできないため、きれいに染めるためには素材選びもポイントになります。
絞り染めの着物は「絞り着物」と呼ばれ、結婚式や成人式などの特別なシーンで見かける華やかな着物です。具体例を以下にまとめました。
- 京鹿の子(きょうがのこ)絞り:京都府で作られる染織品。模様が子鹿の斑点模様に似ていることから名付けられた。
- 有松・鳴海(ありまつ・なるみ)絞り:愛知県の有松・鳴海地域で作られる染織品。100種類以上の技法があり、さまざまな模様を表現しているのが大きな特徴。
- 南部(なんぶ)絞り:青森県、秋田県、岩手県にまたがる地域の染織品。「紫紺(しこん)染め」や「茜(あかね)染め」などの技法が有名。
絞り着物は手作業で行われるため時間がかかり、完成までに数年を要するものもあります。着物全体に絞り染めが施される「総絞り」は「絞り着物」のなかでも特に高価です。
4.型染め(かたぞめ)
型染めは、和紙に模様を彫りぬいた「型紙」を使って模様を描く染め方です。後染めの1つであり、精緻な模様を布地に描く日本の伝統的な技法の1つでもあります。型染めのメリット・デメリットを以下にまとめました。
メリット
- 繊細な模様を表現できる
- 同じ模様を効率よく描ける
デメリット
- 型の制作に時間がかかる
型染めは型を彫った型紙に沿って布地へ色付けるため、繊細な模様も表現しやすいです。また、一度型紙を作れば何度も使用できるため、同じ模様を効率よく生産できます。ただし、型紙の制作が欠かせない点は、場合によってはデメリットになることもあります。
例えば、生地を一枚生産するためだけに型染め用の型紙を作るのはコストパフォーマンスが悪いです。そのため、型染めは同じ模様の生地を何枚も生産する場合に向いています。
型染めの大まかな手順は以下のとおりです。
- 柿渋で和紙を張り合わせた「渋紙」に模様を彫り型紙を作る
- 模様を彫った渋紙を生地にあわせて上から糊を置き防染部分を作る
- 糊を置いた箇所に色が入らない状態で色を指していく
- 型紙以外の部分に色が入る
- 生地を蒸して染料を定着させる
- 糊を水で洗い、色止めをする
以下に型染めの代表例をまとめました。
- 「江戸小紋」:無地に見えるほど細かくて繊細な一色染めの染模様が特徴
- 「琉球紅型」:色彩が鮮やかで大胆な「紅型」と藍色の濃淡で仕上げる色調の「藍型」が有名
着物を売るならまねきやがおすすめ
本記事では着物の生地の見分け方を、素材や織り方、染め方の違いに触れつつご紹介しました。着物の生地は、ポリエステルのような比較的安価なものから、絹や麻のような天然繊維まで幅広く、それぞれで特徴が違えば価格もさまざまです。また、同じ生地素材でも織り方や染め方によって価値が異なる場合もあります。
できるだけ相場に近い適正な価格で売却するためにも、使わなくなった着物を買取に出す際は、どのような素材や織り方が用いられているか事前に把握しておきましょう。また、着物の買取では依頼する業者選びもポイントです。着物に詳しい業者であれば、古くなった着物でも素材や織り方、染め方を考慮して適正な価格で取引してもらえる可能性があります。
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この記事の監修者
水野 政行 | 株式会社水野 代表取締役社長
高価買取専門店 まねきや 最高責任者・鑑定士
今まで 54,750点以上の査定実績。
金・貴金属・宝石全般、ロレックスなどのブランド時計、ブランド品全般、切手、古銭、絵画、骨董品全般の査定を得意とする。
2021年より自社ブランドである「高価買取専門店 まねきや」をリリースし、全国に展開。
「売るはめぐる」をコンセプトにした、買取専門店である当店を一人でも多くの方に体感していただくために、私の約15年間の業界経験の全てを注ぎたいと思っております。